息子は、水をあまり飲まない子でした。
「飲んで」と声をかけても、コップに口をつけてほんの少し。喉が渇いているはずなのに、自分からは取りに行かない。夏が近づくたびに、このことが頭のどこかに引っかかっていました。
なぜ飲まないのか、長い間わからなかった
理由を考えたことは何度もあります。
トイレが苦手、というのは一つあると思います。積極的に水分を取ると、トイレに行かなければならない。息子にとってトイレはどこか億劫な場所で、「飲みたくない」ではなく「飲まない方が楽」という選択だったのかもしれません。
それ以外にも、慢性鼻炎とアデノイドがあって、ずっと口呼吸でした。口が乾くはずなのに、それでも水を手に取ろうとしない。なぜなのか、正直、今もわかりません。
水が嫌いというわけではないようでした。ただ、積極的に飲もうとしない。麦茶は「嫌い」と嫌がり、ジュースは飲むけれど毎日というわけにもいかない。最近は「ジュースは体に悪い」と自分で気づいたようで、家では飲まない宣言をしてくれました。外食のときだけ例外、というのは自分で決めたルールです。お茶の類は、ほとんど受け付けない子でした。
口で息をしている子が、香りで選ぶとは思っていなかった
変化のきっかけは、息子が小学5年生のころでした。
あるお店でフレーバーのルイボスティーに出会ったんです。ハイビスカスが入っていて、自然な甘みがある。「飲んでみる」と息子が言ったとき、私は少し驚きました。こういったものを自分から試そうとする子ではなかったので。
口をつけて、一口。それから、もう一口。「これ、いい」と言いました。
正直、不思議でした。息子はずっと口呼吸です。慢性鼻炎もアデノイドもある。香りを感じているとは思っていなかった。なのに、香りのついた飲み物を選んだ。「なぜこれが飲めるんだろう」と、私の方が首をかしげていました。
あとで知ったのですが、口呼吸でも嗅覚の受容体は鼻の中にあるので、まったく機能していないわけではないそうです。ただ、それが息子にとってどう作用したのかは、私にはわかりません。当時の私には、そういう知識もなかった。「香りがわかるはずがない」と思い込んでいたのは、私の側の決めつけだったのかもしれません。
少しずつ、飲めるものが増えていった
その夏は本当に暑くて、周囲からも「ちゃんと水分取ってる?」と声をかけてもらう機会が増えていました。フレーバールイボスが手元にあったことも手伝って、息子は少しずつ飲んでくれるようになっていきました。
甘みのあるフレーバールイボスから始まって、徐々に甘みのないフレーバーティーも口にするようになりました。ルイボスだけでなく、緑茶や紅茶のフレーバーティーも飲めるようになって、今は普通のお茶(麦茶以外)も飲んでいます。
麦茶だけは今でも苦手なままです。それはそれでいいと思っています。
ひとつだけ、覚えておいてほしいこと
これは「うちの息子の話」です。同じように発達障害のある息子の友人に、「これ飲む?」と出してみたことがあります。思いっきり顔を顰められました。
飲み物の好みも、感じ方も、本当に人それぞれです。「うちの子に合ったから」と差し出せるものでも、別の子には全然合わないことがある。そういうものだと思っています。
ただ——もし水を飲まないお子さんのことで気になっている方がいたら、「香り」という入り口もあるかもしれない、ということだけ、頭の片隅に置いておいていただけたら。
ホッとした、という話
水分をちゃんと取ってくれるようになって、私はほっとしました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、毎年夏が来るたびに心配していたことが、少し軽くなった感じがしました。解決した、というより——突破口が見つかった、という感覚でした。
その突破口が、思いがけない香りのある飲み物だったこと。
口呼吸で、香りを感じていないと思っていた子が、香りで飲み物を選んだ。そのことが今でも、少し不思議で、少し嬉しいです。


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